「チょウ戦じョー 学校ニ爆だンを仕カケタ きミハ見ツケラれるカナ フフフふフ カイ盗ジョおカー」
お約束の、新聞の切り張りで作られた手紙。その文面はただのこれだけであった。学校爆破となれば大事であり、中原小学校の名探偵を自認する私としては、そのような犯罪はなんとしても未然に防がねばならない。犯人は誰か。そしてその動機は。
「だけどさ、貴子――」
「いまはその名前を使うんじゃない。ホームズと呼びなさい、ホームズと」
何か文句がありそうな「ワトソン」渡辺を一喝する。こいつは私のように頭はよくないが、すばしっこさと根性だけは人並み以上のものがあるから、こうして使ってやっている。
「まあ、こうして考えてばかりでは埒があかないわね。まずは現場よ」
「えーっ、たか――ホームズ、まだ7時半だよ」
「探偵に朝も夜もない! 黙ってついてきなさい!」
学校に着いたが、まだ正門は閉まっていた。
「ワトソン、あんたの出番ね」
ワトソンが門を乗り越え、向こう側からかんぬきをはずすと、正門は簡単に開いた。名探偵の前にはこんな妨害工作など無意味である。昇降口も例によって鍵がかかっているけれど、名探偵に抜かりはない。このようなときのために、図書室の左から三番目の窓の上、換気用の小窓の鍵をはずしておいてある。ワトソンがそこから図書室に潜り込み、内側から窓を開けた。現場への潜入は成功。だが、爆弾を発見して犯行を未然に防ぎ、犯人を探し当てるまでは、私の仕事は終わらない。
一階にある、保健室や印刷室、職員室といった部屋は厳重に鍵がかけられ、さすがに名探偵の私といえども潜り込むことはできない。まあ、私に入れないような部屋なら犯人も侵入できるわけはなかろう。一階の捜査は簡単に済ませ、階段を上った。やはり怪しいのは二階以上だ。二階には理科室、図工室と、一年生から三年生までの教室がある。理科室と図工室は鍵がかかっているので、やはり侵入は不可能だろうから、特に怪しいのは教室やトイレといったところだ。教室の前で命じると、ワトソンは机や掃除ロッカーの中、教卓の下まで隅々を調べ尽くし、私に報告してくれる。さすがは私の選んだ助手、働きぶりは確実だ。二階の教室もトイレも全部調べ尽くした。異常はない。
残るは三階だけだ。家庭科室と音楽室はやはり鍵がかかっている。トイレも異常なし。あとは教室だけだ。四年一組の教室をワトソンに調べさせながら、私は隣の教室に足を踏み入れた。四年二組。ここには三月まで、私の探偵事務所があった。リコーダー盗難事件、給食カレー強盗未遂、雅美邸ポチ誘拐事件――この場所で引き受け、解決してきた数々の難事件が思い出される。その事務所も、今月から場所を移す。移転先が五年何組になるかはまだわからないが――。感慨にふけるなど、少し探偵らしくなかった。そう思い直した、次の瞬間であった。
バタン。教室の扉が大きな音をたてて閉まった。教室は引き戸だ。蝶番のあるドアとは違い、ひとりでにドアが閉まるはずなどない。
「ワトソン!」
私は助手を呼びつけながら、閉ざされたドアを開けようとしたが、外からつっかえ棒でもされたのか、ドアはまったく開かなくなっていた。犯人だ。私の捜査に恐れをなした犯人が、ついに妨害工作に動き始めたのだ。
「どうした! 早く来い!」
ワトソンは一向にやってくる様子がない。私の呼びかけを聞けばいつでもすぐに駆けつけてくれるはずなのに。まさかワトソンもすでに犯人に捕まって――なんという凶悪犯だ。絶対に許せない。なにがなんでも、この手で捕まえなくては。まずはこの教室を脱出するのが先決だ。そう思った瞬間、どこからか、シュー、と何かの音が聞こえてきた。教室の隅から煙が上がっている。火薬の匂いがしてきた。爆弾だ。ついに爆弾の導火線に火がついたのだろうか。うかつだった。私は犯人の罠にはまってしまったのだ。名探偵一生の不覚。だが、まだ爆発は止められるはず。教卓の横、窓際にある水槽が目にとまった。あれで火を消し止めよう。なんとしても学校爆破という最悪の結末は避けねばならない。だが、水の満たされた水槽は重く、とても持ち上げられない。そして――
パン。パパパラララ。パパン。大爆発。室内は火薬のにおいと煙で満たされ、私はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。カラン。ドアの向こうで、つっかえ棒が落ちるような音がした。そしてドアが開け放たれ――
「あっはっはっは、名探偵ホームズ、凶悪犯人の手に落ちる。この教室に爆弾を仕掛け、君に挑戦状を送りつけた『怪盗ジョーカー』はこの僕だよ」
その声の主、それはほかならぬ、私の忠実な助手、ワトソンであった。
「な、なんでこんな――」
「あれ? 気づかなかった? 今日は何月何日だっけ?」
「四月、一日」
「そう、エイプリル・フールだよ。いやあ、ひっかかってくれて愉快、愉快! あっはっはっは。いやあ、いい見世物だったよホームズ、いや、貴子!」
「――助手の分際でこの名探偵に逆らうとは――どうなるかわかっているんだろうね!」
「うわ、いて、いてて、や、やめろぉ!」
私が躍りかかると、犯人ワトソンは尻尾を巻いて逃げ出した。まだまだだね、ワトソン君。私に逆らったらどうなるか、それを予想できていないのが君の詰めの甘さだ。助手の分際で名探偵に勝てると思ってはいけないよ。あんたはしょせん、私の助手なんだからね。私は逃げてゆくワトソンの襟首をつかまえながら思った。そう、これからもずっと、ずっと、私の捜査に協力してもらわなくちゃいけないんだから。私の忠実な助手、そして大切な――。