私は評論家である。
人間の欠くことのできない運動としてのスポーツを考える、スポーツジャーナリストである。日本におけるメジャースポーツである野球、サッカーのほか、ゴルフ、ラグビー、バレーボール、マラソンなど対象分野は多岐にわたる。銀行員を辞めてからほぼ一年後、この天職にありついたのである。
今夜はテレビ番組のコメンテーターの仕事があり、私は早めに夕食をとった後、収録にあわせて打合せ原稿に目を通していた。司会キャスターの質問に対し、如何に澱みのない応答ができるか。評論家として、力量の問われるところである。好みのジンジャーエールを飲みながら、構想を練るのが習慣となっている。今夜予定される五つの質問を予習しきった私は、収録までの空き時間を、NBAバスケットボールのテレビ観戦に費した。
スタジオ入り。
いつも、収録開始五分前くらいに私の緊張はピークに達する。緊張、というものを克服し、自らの感情を上手く高揚させることが、スポーツにおいては絶対必要不可欠なのである。そう、この胸の高なりを抑えるのだ。脳からの感情の伝達を、肉体によって受けとめ、それを力に変換するのだ。
番組が始まる。トピックは政治・社会問題から芸能ネタへと移り、ついにスポーツに回ってきた。VTRと並行して、一つ、二つとキャスターの質問を切り抜けていく。それはさながらハードル走の選手である。次から次へと滑らかな脚の動きでハードルをまたいでいく。私は、今、トップを独走中なのだ。ハードルにおける跳躍によって、規則正しいリズムを陸上トラックにひびかせているのだ。
不意に、何か、体の中心部に得体の知れぬ緊張感が集中するのを感じる。少々の温ったかみを伴う緊張感だ。尿意だ。それは、キャスターとの問答の間にすさまじい勢いで増大していく。そうか、ジンジャーか。そういえば、あれを飲んだあとは必ず、来る、ものだった。私はもじもじし出した。体の揺れはキャスターを前におおきくなる。
世間を前に爆発なんてするものか、するものか、、、助け、て、、